ズリルの罠、さやかを救え!(1)

上尾美奈

 

「まもなく日本上空です。」
機内放送の声でその女性はサングラスを半分あげて、富士山を見た。
ところ変わって、ここは宇宙科学研究所。スクリーンに新しい、グレンダイザーの翼になる機体の完成予想図が写し出される。
「これが、空中戦用のスペイザーというべきものだ。機体は超合金NZ、エネルギーは一応光子力だ。」
宇門博士がコンピュータを操作し、合体のシュミレーションをみせた。
「ただ、光子力エンジンがどうもグレンとのエネルギーの相性がよくなくて、体の微妙なスピードに影響が出ないとも限らないのだ。甲児くん、実験機でのテストの感触はどうだ。」
「確かに、この機体自体の性能はTFOを上回っていると思われます。しかし、博士のおっしゃる通りエネルギーの問題が・・・。光子力が弱い訳ではないのですが。」
そこへ、所員Aが駆けつけてきた。
「所長、外電です。フランス高等エネルギー研究所のS.Yumi氏が、反陽子エネルギー理論を発表したそうです。」
「 S.Yumi?さやかか!!」
甲児はパッと顔を輝かせた。そこへ所員Bが駆けつけた。
「所長、暗号電文です。S.Yumi氏が、反陽子エネルギーの抽出基礎実験に成功したそうです。さらに宇宙空間での応用実験の協力要請依頼です。」
「博士、新しい、スペイザーのエネルギー源として期待出来るかも知れませんね。」
「ああ、そうだといいのだが。」
そこへさらに所員Cが駆けつける。
「甲児さんに秘密電文です。成田に着いた、今からそちらにむかう。さやか。」
「博士、きっと、 S.Yumiです。俺途中まで迎えに行ってきます。」
「あっ、おい、甲児君!!むう行ってしまったか、いったい、何をそんなに急いでいるのかね。」
甲児は喜びを隠し切れない表情でバイクにまたがると、「さやか、やったな。」と呟いた。
さやかは車を運転して、一路八ヶ岳へ向かっていた。途中サイドミラーに一瞬動く光を確認すると、注意深くペンダントを隠した。そして、しばらく車を走らせ、その光が近づくのを確認すると車から降りた。

 

甲児は、一台の車が止まって居るのを確認すると、不吉な予感を覚えて、バイクを近づけた。そして、ある物を確認すると大介を呼び出した。

 

ズリル長官は捕まえた捕虜を目の前に、かすかな戸惑いを覚えた、地球の頭脳といわれている科学者らしいその捕虜は美しい女性だった。しかも、動じる風なく自分の前にいる。
「あなたがS.Yumi博士ですか。」
「そうだとしたら、何かご用かしら。」
「科学者として、スカルムーン基地にお迎えしたいといったら。」
「私は研究を続けれるところなら、別にどこでもかまわないわ。ところで手荒にここまで連れてこられたの。少し休ませていただきたいわ。それに部屋自体を監視するのは仕方のないことなのでしょうけど、部屋の中まで監視付きということはないでしょうね。」
「ははは、さすがは地球の頭脳といわれる方だ。ずいぶん利口なことだ。よろしい、あなたの部屋を準備いたしましょう。」
さやかは、部屋で一人になると呟いた。
「きっと、甲児くんが探しに来てくれる。それまで無事でいなくては。そのためなら…。」

 

「こっこれは、ベガ星ミニUFOの塗料だ。」
「やはりそうか。」甲児はかすかに震えるこぶしを握り、内なる動揺を隠しつつ、車の中を捜した。車は物色した、跡がある。シートの間から、ペンダントを見つけ、さっと顔色を変えた。ここはさやかと甲児がアメリカで伝言メモを隠しあった場所だ。
宇宙科学研究所に戻った甲児はペンダントの中からマイクロフィルムを見つけリーダーにかけてみた。そこにはいくつもの数式が書かれていた。
「こっこれは…。」
「反陽子エネルギー理論と思われます。」
甲児は感情を押さえた声で答えた。
「つまり、こういうことだ。 S.Yumi博士はここへ向かう途中、べガ星軍に連れ去られた…。」
「所長、お願いします。すぐ、グレンダイザーを出撃して下さい。彼女が基地に連れ去られる前に。」
「甲児君、あせる気持ちもわからなくもないが、いったいどこへ出撃すればよいのかね。もう少し、敵の出方を待って見た方がいいのではないか。」
「そんなこと、グレンダイザーが出撃すれば、向こうの方からやってきますよ。いいです。もう、頼みません、俺がいきます。」
「あっ、待ちたまえ甲児くん、あのスペイザーまだ、テスト機で…。」
「お父さん、 きっとS.Yumi博士は甲児君の大切な人でしょう。それに、確かに基地に連れ去られて、取り戻すことができなければ,反陽子エネルギー理論が…。」
「すまないね。頼むよ。」
「グレンダイザーゴー」

 

「ズリル長官、グレンダイザーです。」
「円盤獣ドガドガを出撃させろ!!」
「甲児君、円盤獣は、俺に任せろ!!」
「お願いします、大介さん」『俺はさやかを』
甲児はテスト用スペイザーをマザーバーンに体当たりさせた。  

 

さやかは外が騒がしくなってきたため、そっと外を覗くと見張りがいない。さっと身構えそっと部屋を抜け出した。その時、どこかで爆発が起こった。飛ばされた兵士の銃が暴発し、さやかの脇腹をかすめた。
「さ〜や〜か!!」甲児は叫びながら銃を撃って進んだ。前方に倒れているさやかを発見した。
「さやか」
「甲児くん」
「大丈夫か、恐かっただろう。」
「ううん、きっと甲児君が助けにきてくれるって信じていたから。うっ」
「さやか!!」
甲児はさやかを抱き上げ、スペイザーに乗り込んだ。
「ただいま、保護いたしました。負傷しているので、緊急手術等考えられます。医師の準備、よろしくお願いします。」
「さやか、もう、すぐ研究所だ。がんばるんだ。」
甲児は研究所に着くとすぐに手術が始まった。
「先生、よろしくお願いします。」
と、言うなり、スペイザーを発進させた。
「ゆるさんぞ!!」
「甲児君、無茶をするな!!」
甲児は最大スピードでスペイザー突っ込ませ、自分の脱出と同時に爆発させた。

つづく

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