久々のSSつきです。そんなに面白く出来なかったけど、よろしかったら読んでやって下さい。
煙草の煙
「わかってたさ、そんなことぐらい……」
甲児はポケットから煙草を取り出し火をつけた。紫煙を吐き出すその顔は憂いに満ち、丸めた背中は限りなく哀しい。
しばらくの間、漂う煙を見つめていた甲児だったが、やがてその口から小さな呟きが漏れた。
「………腹減った……」
と、すぐ近くでそれに同意する声が上がる。
「……俺もさっきからお腹がぐーぐー言ってるよ」
やはり物悲しい響きを帯びたその声はシローのものだ。
「なんでこんなことになったんだろうなぁ……」
「それはやっぱり、みさとさんが帰省中だからじゃないの?」
「そうだな……」
そこへ、三人目の声が割って入った。
「すまん、甲児くん、シローくん。さやかのせいでこんなことに……」
眉間に深い縦皺を刻んだ弓も、この言葉と同時にお腹から「ぐー」という音を響かせた。
ここは光子力研究所内、弓家専用のダイニングスペースだ。時刻は既に十時を回っている。なのにテーブルの上に並んでいるのは、水の入ったグラスと綺麗に揃えられたフォークとナイフだけだ。
「……さやかさん……もう諦めてくれればいいのに……」
ぽつりと言ったのはシローだ。
「いや、あいつは基本的に諦めが悪いから……」
甲児の言葉に弓のため息が重なる。それは甲児の言葉に同意しているように感じられた。戦闘時においては長所となりうる性格も、ことここにおいては迷惑な性格以外のなにものでもない。
今日、みさとは実家に帰省している。そういう場合普段なら研究所の食堂で食事をする一同なのだが、どういう風の吹き回しか、さやかが「今日は私が作る!」と言い出したのだ。
確かにさやかもたまには食事を作る。そして決して下手なわけではない。が、この日さやかは「こういうの食べたくない?」と言って、三人にはとても一度では聞き取れないような、なんとかの何とか風なんとかソースだのなんだのという、「それ素人が作るのは無理だろう?」的な料理名を挙げたのだ。が、余りにも自信満々に言うものだから、てっきり勝算があるのだと思いきや、単に作りたかっただけのようで、結果この始末だ。
「……まだ当分無理みたいだな……」
キッチンからは今また大きな物音が聞こえてきた。
弓のシローの腹の虫をBGMに、紫煙を吐き出す甲児の顔はひたすら哀愁に満ちていた。
おしまい。
あとがき
またもやさやかさんを料理出来ない子にしてごめんなさい(笑)。